Forever Child



 平凡な時を謳歌する至って閑静な住宅街。立ち並ぶ似た造りの家々が一つのコミュニティを形成している。
 その中にも個性を見出そうと意匠を凝らしたガーデニングや門構え、自己満足の脚色に彩られる街並みを闊歩する少女は、凡そ相応しくない獲物を手に、面持ちの険しさはただの散歩中ではないと知らしめる。
 お世辞程度の公園や深夜は営業していないコンビニエンスを過ぎて、やがて一軒の前で立ち止まる。やはりテイストが同じような、だが見知らぬ家。
 休日の昼間、洩れて来るのに相応しいのは、
 例えば気だるげなテレビの音声、例えばそれに笑う家族。
 例えばこれから何処へ行こうと、例えば談笑している家族。
 例えば例えば例えば例えば、全て行き着くのは家族の偶像。

 しかしそれらの一切は無く、洩れ聞こえるのは、怒声と怒号と怒髪と、悲鳴。
 荒々しい男の罵倒と、消え入るように霞む幼子の叫喚。

 なんだ、結局変わっていないのね。

 落胆か、諦めか、予想通りの、期待か。

「それともだからこそ、私は此処にいる。」

 一人ごち、玄関のチャイムを鳴らす。ぴたりと止んだ飛び交う声。
 再度押して、首を傾げる真似事。近年築かれた住宅街なのだ、訪問者の顔を見る防犯システムくらいは取り込んでいるだろう。精一杯、こんな休日の、朝に近い昼時に誰一人いないのだろうかと訝しむ、ふり。
 飯時の合間を縫い、丁度お出掛けをしようかと動き出す時間帯。きちんと定めて来たのだから。
 更にもう一度促がす。扉の向こうから微か聞こえてくるピンポンの音色に合わせ、近付いてくる人の気配。インターホンを取り上げる音がして、不機嫌そうな男の声がぶっきらぼうに訊ねて来た。
「どちら様?」
神無(かんな)小夜(さよ)と申します。私の母と此方の奥様が同じカルチャースクールに通っていまして、届けものを頼まれたんですが。」
 淡々と嘘を述べると、男はそれきり押し黙る。
 恐らくは早々に追い返したい、或いは家に上げたくないと考えているのだろう。
 小窓の液晶モニター越しに自分の顔が映りそれをじろじろ見つめながら疑わしくは無いか、何がベストか、唸っているのだと思うと、

 吐き気がする。

「生ものなので、なるべく早く渡すよう言付かりました。」
 追い討ちにあからさまな舌打ちを落として、それでも渋々玄関ドアが開かれた。
 平均よりは大柄な体躯、無精髭に頭垢だらけの髪、伸びただらしないタンクトップ、それからゴムの緩そうな股引。
 如何にもむさ苦しい、面子というものの根源を否定しファッションの最底辺を這いずる恰好で出迎えた男は、品定めするようにじろじろと小夜の全体を嘗め回し、悪意に気付かれないよう笑顔を取り繕うので精根尽き果てるかと、不安に駆られながらも負けじと持ち上げる頬に全身全霊を懸ける。
「それで? モノは?」
 初対面の人間に対しての応対を学んだ事が無いのだろうか。男は家の主と言うより偶然物取りに入った間の悪い泥棒のようだ。

 尤も、初対面でもないのだけれど。
 見破れないのは、好都合。
 そう、ただの好都合。
 だから何も、挫ける事は無い。

「ちょっと取り扱いが特殊なので、お台所まで失礼しても宜しいですか?」
「何言ってんだ、見ず知らずの奴を上げる訳無いだろう。」
 間髪入れない拒否にもめげず、口八丁を続ける。
「冷蔵庫に入れる前に一工夫必要なんです。言葉じゃ、説明し辛いなぁ。」
「……お前、なんだ? 怪しいだろ、新手の強盗スタイルか?」
「笑えない冗談ですね。」
 隙を見て、がら空きの脇から押し入るように侵入すると、目の端に男の驚愕が、鼻にむかつく汗の臭いが、丸太のように太い腕を掻い潜った先の、リビングに通じているのだろう小さな廊下には、蹲った塊、ただの布切れのようにも見える、子供の丸まった躯が。
「おいお前っ!」
「あちらは、どういった状態なんですか?」
 隠蔽したかった事実が独りでに這い出ている事にも腹を立てていたようだが、兎に角外敵と見做した男は力任せに玄関を封鎖し、そのまま小夜を乱暴に掴んだ。
「家宅侵入罪だろ、なぁ? おまけに余計なもんまで見てくれてよぅ。」
「知られたくないのならもっと、ちゃんと隠しておくべきでしょう。」
 拘束する肩に、指がぎりぎり減り込んで、力加減を知らずそのまま砕き割ってやろうという魂胆が見え隠れする男は、方針を定めたか下卑た高笑いを上げて小夜を壁際に叩き付けると、のっしのっし、矯正された事が一度も無いような蟹股で自宅を勇猛に歩き、ぼろ切れ同然の幼女を摘み上げる。
「ちゃんと閉じ込めてきたに決まってんだろう。勝手に部屋から出やがって、やっぱりまだまだ躾が必要だな。」
「お仕置きの、間違いですか?」
「お前もだ。おかーさんの教育がなっていないに違いない。嗚呼、だから俺が躾けてやろう。今の時世、他人の子を叱れる親なんてそうはないもんだ。」
 他人の子供。
 そうだったら、どれだけか善かったのだろう。
 だが臭いものを棄てるかのよう不粋に男が持ち上げた、それは。


 きっと、妹だね。


 二人を見つめる視線に蘇る思い出は、血と、痛みと、おそれしかない。
 晴れやかさも、華やかさも、何も無い、ただの、どどめ色。

 小夜が悪夢からようやっと解放された時、だからといって誰しもに平等な幸福が訪れた訳ではなかった。
 隣の空き地では子供のものとは思えないリンチが行なわれていたし、怪我を治して復帰したクラスは学級崩壊していたし、ニュースで流れる遠い国の出来事では戦争の激化を伝えていたし、
 ママは、身を引き裂かれる激痛にこらえているかのように震えていた。
 協議離婚が成立して、理不尽に振るわれた暴行から二人共に解き放たれたと言うのに、寧ろ身を更に窶れさせ、背中はどんどんと小さくなっていって。

 ママは、幸せじゃなかったの?
 痛みから、悪夢から、苦しみから、のがれる事が出来たのに、
 ママは、倖せじゃなかったの?

 人によってしあわせのあり方が違うというのなら、間違いなく親子の意思は反していた。
 実の親子間であると証明する、血の繋がりを憎み、全身から抜いて始まりから正したいと願う人。
 罵声と横暴だけがシャワーのように浴びせかけられても、一緒にいられればしあわせだと思う人。
 女である倖せを棄てて母の想いから子供を選んだ親は、
 女として放棄した奴隷や召使いの立場を恋しがって弱り、
 母としてそれを隠し細腕で支えようと無理をして無理を重ねて、

 死んだ。

 葬式に訪れない姿に、安堵したのは子の心。
 葬式に訪れない姿に、激怒を、覚えたのも。
 葬式にも訪れない男を、想って死んでゆく、母への、哀しみ。

 遺された、子ではなく。
 離れていった、愛する人を。

 どうして?
 甚振られ傷ついた私を最期に思い返してくれないの。
 あんまりだ。
 それでは、私の存在が間違っていると言っているようなものだ。
 それとも、私の存在が間違っていたと、云っていたのだろうか。

 靄を晴らさなければ、生きていく事すら叶わないと。
 喪服のまま既に新しい家庭を築いている父親の元を訪れたのは、具体的に何を求めてだったのか。
 若し、若しもあんな男でも、次の家庭で成功していたら。

 私だけが間違っていたのだと。

 自分の存在全てを否定してしまうそれ。
 だけど母親の思いを肯定するそれ。
 自分の存在を総て、否定してしまうそれ。

 でも、若しそれなら、それでも構わない。それでいい。
 何故なら可能性を秘めているから。
 どちらが正しいのか、今証明する時。

 結局どちらであって欲しかったのかと言ったら、理解らないけれど、多分、善き父親を見たかった。そうではなかったから若しもを持ち上げているだけだと言われれば、正直反論出来るだけの自信は無い。
 それでも。たった一度でいい、自分の父親であった人の思い出が血塗られたものでしかない、そんな記憶だけでは寂し過ぎるから。
 母が命を賭けて愛した人が、ひたすらなろくでなしであるより、せめて、残された片親は、自分の為じゃなくていい、まともな親であってくれたなら。

 しかし、現実は繰り返される。

 悪逆の宴は、平日夕暮れの住宅街を席巻していた。阿鼻叫喚は隣近所にだって聞こえているだろうに、自分の嘗てがそうであったよう、見て見ぬふりの犠牲になって、来ない救済を待ち望んでいた、自分の嘗てがそうであったように。
 これはもう、変えられないのだ。どう足掻いても、変えられないものなのだ。
 そしてその進化の無い男の血が流れる自分が母を不幸にしてしまったのも当然の事。
 それこそ、本当に見定めたかった事だったのかもしれないと、後の祭りに思い至る。

 これから先にも、絶望しか見えないのか。
 母を苦しめた罰に戒められ父と同じ醜悪に染まらぬよう戦々恐々と過ごして?
 これから先にも、絶望しか見えてこない。

 それならばせめて、
 同じ血に因って
 同じ性質に依って
 この男を裁き、贖わせてやる。

 初七日に味わった現実の答えを、四十九日に過去の清算として。
 その為に少女は今一度、決意と武装を手に忌まわしき元へ、やってきたのだから。


「おい、お前聞いてんのかよ!」
 悪意の塊の嘲笑が、元から出来の悪い男の顔を歪ませる。
 下地が薄っすら出て来ている歯茎と、何本か溶けたように無くなっている真っ黄色の歯と、零れる涎の醜い(あぎと)
 隠し持っていたサバイバルナイフを見せるが早いか突進は土足のまま廊下を滑り、たった一突きで終わらせてやる。

 私の倍の倍は生きた男の人生など、それだけの閃きで終わらせてみせる。

 猪突にこそ驚愕を表した男は、持ち上げていた自分の子供を雑に放り投げ、向かい来る両肩をがっしりと押し留める。
 悟られた奇襲に意味は無い。悔しげに、そして恐ろしげに牙を向く小夜の顔面を無遠慮に鷲掴み、男女差どころか体格差に押し負ける揉み合いは乱闘にすら足らず、しかし一方は命を賭けた渾身の戦い。

 負ける訳には、いかないんだ。
 母の、誇りに。
 自分の、命に。
 今新たな犠牲者として育まれてしまった、
 妹の、為に。
 負ける訳には、いかない。

 切先は常に人肉を示し、煌く刃は遂に、躯を刻んだ。

 鮮血が噴き出して、男のタンクトップを真赤く染め上げ。
 噴水に、男は例の下卑た笑いを返す。
 返り血を受けて嗤う姿は、まるで魔物のよう。

 小夜の胸に、ホームセンターで買えるような安くて脆いナイフが深々と、突き刺さっていた。


 返り討ちを見事披露するとそのまま馬乗りになり、激昂のまま拳骨を振るう。必死になって身を捩り脱出を図る股下の小夜の躯を楽しむように、頬に、額に、鼻に、目に、所構わず当たり散らす。
 ふと真下の、既に何発も食らわせて腫れ上がり原型が留まっていない顔を見て、男はもう一度、嗤う。
「なんだ、お前小夜じゃないか。」
 今更名乗りが脳まで届いて、つまりこの男にとっては自分なんてそんなちっぽけなもので、包み隠さず本名を明かしたのも一つの賭けだったのだと、だからやっぱり今更の、負け惜しみ。
 嘗ての娘だと理解するのに、どれだけの時間を要するのか。
 寧ろ目も当てられない状況に達しなければ判別出来ない程、男は常に暴力を振るい、小夜の顔を膨らませていた。
 痛々しいバルーン状態こそが、彼に於ける娘の顔だと。
「ふ……っざけんなよっ、あんたなんかぁっ!」
 食い縛る下の息は儚く、空元気の威嚇に百戦錬磨が怯む筈も無い。生意気な口を捩じ伏せる為繰り出した一発が、前歯を砕いて奇しくも男と同じように、小夜の美しかった歯並びを汚らしく揃える。
「あーあー、昔っから気に食わなかったよお前は! やっぱり俺は間違っていなかったんだ、親殺しを企てるような大犯罪者の素質がある娘を躾けてやってたんだからなぁ!!!」
 首元に当てられた手は、例え締め殺す気持ちが無かろうとその時点で既に、出来るならば呼吸をやめたいと小夜に自殺願望を齎す。
 この男に、触れられるなど、今一度いいように弄ばれるなど絶対に、

 絶対に。

「お前みたいな糞餓鬼を俺が調教してやってたって言うのに、見抜けず別れ話なんか切り出したお前の母親も、やっぱ糞って事だな!」
「それでもあんたが見初めた人だろう! あんたなんかをすきになってやった(ひと)だろう!」
 その点では、充分奇特という相互理解も生まれているが、痛みか、哀しみか。どちらにせよ久方ぶりに来襲した悪夢に揉まれ生まれた小夜の涙は血と混じって、穢い。
「そんでお前みたいな阿婆擦れしか生み出せなかった駄目な奴だって事だろう!!」
 歪み、眉間に寄せ集められた皺の分、懐いた憎しみは父母同時に、懐いた愛情も、若しかしたら。

 取っ組み合う二人の背後に、静か、忍び寄る。
 忘れ去られた傍観者、ついさっきまでのターゲット、二度目の男の玩具だった、幼女は静か、忍び寄る。
 アングルから垣間見えた姿に、小夜は掛ける声も無かった。下手に何かすれば男が気付いて甚振る対象が増えるだけだ。だけど男を振り払うどころかこうして必死の悪態吐く事で目を向けさせるくらいしか出来はしない。

 助けようとでも、してくれているというのか。
 娘の声なんて聞こえはしない。今まさに、此処に実証がいる。
 逃げろ。
 逃げて。
 お願いだから。
 だって、何が出来るというの。私より幼く、私と同じようにずたずたに傷つけられた、そう、まるで、過去の私。
 助けたかったんだ。
 結局、自分を過去から。
 そうする事で、生き延びる確率を格段に上げた彼女が、既に道行きを変更出来ない自分と違って、まるで普通に生きてくれる事。

 助けたかったんだ。

 妹より、自分を。


 嬲り殺す勢いで拳を振り続ける男が突然停止したのは、その下で思いあぐね自責と悔恨に苛まれる小夜が、まだ何もしない内に。
 ぴたりと、中空で停止した右腕が握り拳をゆっくりとほどいて、先の奇襲時と同じよう、元々酷い造作だが驚愕に歪めた尚醜い顔で男は振り返り、仰ぎ見る、事も出来ずに。

 滴る血。

 何処から?

 殴り続け過ぎて付着した拳から、そして男の、額から。

 ぐらり、傾ぐ。小夜を拘束する下半身はそのまま、上体がスローモーションを見ているかのよう、ゆっくり、ゆったり、落ちて来る。
 幼女の背丈から渾身振り下ろされた切先は後頭部を突き破り、額に飛び出した先端が、押し合い圧し合いの内体位がずらされた小夜の、胸に刺さったナイフとぴたり同じ位置、同じ軌跡、柄の尻にこつん、可愛らしい音を立ててぶつかる。

 なんて、偶然。
 それか、必然。

「やっぱり、私達って、どう足掻いてもこの人の娘なのね……。」
 笑っているのか、泣いているのか、もう、小夜にも自覚が無い。
 膝で抑え付けられ内出血を起こしている右腕を、渾身の力振り絞りかんとか上げて、もじゃもじゃの黒い海から獲物を引き抜く。力が持続せずそのまますっぽ抜けてしまった正体は、何処の家庭にでもあるような極く普通の包丁で、血の軌跡を振り撒きながら滑るこの、廊下の向こう、地続きのリビングに併設されたキッチンから持ってきたのだと、誰にでも直ぐにでも判るだろう。
「娘は男親に似るなんて、法則誰が決めたんだろうね。こんな男でも愛したせめて、ママに似たかったって。貴女もそう、思うでしょう?」
 言葉を理解している節は無い。歳が至らないのもあるだろうし、男に受けた暴行の為に発育が遅れていたり、犯した罪の衝撃に身を震わせていたり、理由は十二分にある。
 だが、興奮し膨れていた躯、解放の歓喜に満ちた表情は、父がもう家にやってこないと知った時の小夜のように明るく朗らかで、中々笑う機会が無かったが為に
――――生傷絶えずその痛みも癒えぬどころか伴わせて、笑う余裕など無かったが為に歳相応の笑い方を知らずおかしな形をしているところまで、そっくりだ。

「わたし、がんばった、おねえちゃん。」

 勇んで呼ばれた拙い称号。
 むず痒さを隠せず、込み上げる熱量は、晴れ晴れしさと、苦々しさを伴って。

 初めて、呼んで貰えた。
 初めて、知った妹に。
 初めて、血の繋がりがよかったと強く感じる瞬間が。

 こんな場面にしかなれなかったなんて、かなしいね。

 もっと、別の形が良かった。
 血にまみれ、もう一つの血の繋がりを色濃く感じる以外の、別の。

 二人共に泣き笑う。一体の死体を囲んで。
「……ね、そこの包丁、取ってくれる?」
 指で示された、からんからん、音を立てて転がっていった包丁を再度持った幼女は、力無く動く小夜の青白い掌にそれを載せる。
「ちゃんと、ぎゅっと握れるように、指を……そう、そうして。」
 断片的には通じるのか、幼女は小夜より一回り小さい両手に力を込めて、小夜の青白い指が包丁の柄にくっ付くよう、包み込む。
「誰に何を言われても、私が、おねえちゃんが、やったんだって言うんだよ。」
 最初で最期のおねえちゃんとして、私は何が出来るのだろうか。
「何年か経って、何をしたのか理解出来るようになって、それでも納得行かなかったら、その時は、自首なさい。」
 最初で最期のおねえちゃんが語る言葉を、せめて脳内に留め置こうと必死で首を縦に振る、妹のなんて健やかな目。
 功績を奪われるなんて思っておらず、はじめてのおねえちゃんを慕い喜んで従おうと、今度こそ肉親に気に入って貰おうと、必死の素振りで笑いながら。
 それじゃまるで、彼女の母親もろくでもないようで、それともこんな男に娶られ我が子をサンドバックに宛がっているのだ、知っても知らずも実際ろくでもないのだろう。
 小夜の母親がそうであったように。

 せめてまだ幼い彼女を、救うなんてそんな大それた事、出来なかったけど。
 せめてまだ幼い彼女が、これからを生きるのに選択肢ぐらいあったっていい。
 変えられない真実も、殺人犯になるかどうかは自分の意思で決めて欲しい。

 だって、正当防衛。

 少女は、父に抱かれて眠る。
 それは仇という名の父親と、初めてきちんと触れられた、最初で最期の、添い寝。

 少女は、華を抱いて眠る。
 それは冷たく血に濡れた刃、初めて逢えた妹に見守られ、最初で最期の、邂逅。

「おねえちゃん。」

 憎んだ親の腹の下で、憎んだ親のよう息が途絶えていって、子供のまま永遠を閉ざす。
 せめて最期に聴いた言葉(こえ)が、愛する者の音色(こえ)であった事だけは。

 暗闇しかなかった人生の終止符に、相応しい?


























一次へ

廻廊へ



++以下言い訳

暗くて痛くて救いの無い話ですが趣味です。や、救いなくないよ。妹の未来がまだ待っている!
尤も自分がその続きとやらを考えたらどうせぐちゃメロ(ぐちゃぐちゃな昼メロ染みたもの)にしかならないのでここは互いの健全なる希望を死守せんが為考えないようにしておきます。

今回名前つきで行動していたのは一人だけですね。一応あったようななかったようなですが、出さなかったので父と妹はそのままに。
そのたった一人の名前持ちの由来は、神は無い、さようなら、から。
またそれえらく適当ですね。いや確かに即興なんですが。捻りがちょっと足りません。いやいや何を求めてるんだ、何を。
年齢的には多分十四、五辺りをイメージしているんですがどうでしょう。序でに妹とは十歳くらい違うつもりで。それってなんていうか知ってるかい? えーと、後日談? のんのん、後付けさ!