「ティナとセリスって、似てる。」
 最初にそう言っていたのは誰だったか。覚えていないくらいには、何人かに掛けられた言葉。
 二人、まるで同じ境遇だった。
 近くあった、あの存在。



 
ぎ り ぎ り



「結局どの部分を取ってそう見做すかといったら、帝国に軍属していた事くらいでしょう?」
 そして何度目かのそれを言ってきたのは、最近仲間になったモグだった。
 毎回なんと答えてよいのやら、毎回答え方を忘れては、曖昧に微笑んで立ち去るセリスだったが今回は隣のティナも一緒に惑っていて、そのままデッキに佇むツーショット。
「えと、後は最初から魔法が使えてた、って事だと思う……」
 共通項をなんとか見つけようと捻り出した様子だが、でなくともその二点くらいしか主だったものは無い。
「まぁ、私の場合は注入したんだけど
――――仲間になった時点で、って言うのがね。」
 実際、容姿一つ取っても髪の色も長さも違う顔つきも背丈も違う、性格にしてもまるっきり百八十度、なんて事は無かったがとても似ても似つかない。
 しかし帝国の手から逃れ、魔法によって参戦してゆく流れが似ていると言われれば、それもまた事実であると。
「で、でも、セリスのが強いし、魔法もだけど頼りになるって言うか、きりっとしてるって言うか、」
「毅然とした態度って? ありがとう。」
 たどたどしく繋がれる文章に纏めを付けると、頻りにティナは頷いた。どうやらセリスが自分と同列視される事が不満だと思っているのでは無いか、そんな不安に駆られて見える。
「別に、いやとかじゃないのよ? ティナみたいに可愛いって意味なら嬉しいんだけど。」
「私も! 私も、セリスみたいに恰好よく、毅然としていたいから、本当はちょっと嬉しいの。」
 妙な褒め大会になってしまって恥ずかしさもあり、どちらとも無く笑い出した。操縦桿の辺りで話し込んでいたセッツァーとエドガー、ロックが乙女の談笑が小耳に入ったか興味深そうに何度か振り返るが、近付いては来ない。
「そうね……境遇っていう意味なら、そうなのだろうけど。」
 二人、まるで同じ境遇だった。
 でもそれは、ティナじゃない。
 ティナよりももっと、近かったあの人。

 表情。
 言葉。
 わらいごえ。

「セリス……?」
「ん、なんでもな、い。」
 フラッシュバックに襲われ船縁に寄りかかったまま呆然とするセリスを気遣わしげに見つめるが、自己世界の逡巡に入ったのだと思い至るとそのままティナは、邪魔にならぬよう足音を忍ばせ三人の方へ駆けていった。

 幻獣として力を保持していたティナと違い、その幻獣から抽出した力を体内に納めるところから始めなければならなかった。
 それによる負荷も、その後の推移も、未だ未知数でありながら人々は手を出さないではいられずに。


「私はあんな風にはならない!」

 いつかシドに向かった激昂。唯一魔導研究所内で感情を吐き出せる人物であったからでもあるが、お門違いだと今なら思える。

「精神を壊すだなんて、それはあの人の弱さよ。」

 そうならなかった自分を引き合いに、だから今後もそうならないと望みを託すかのよう、個別に分け、同じにはならないと、同じな筈が無いと切り捨てた。

「アレがあの人の今。過去を夢見て浸る程、私弱くはないわ。」

 知らなかった。彼が先に被検体となった事で、改良が生まれ新たなステージでの供給が行なわれたなどと。

「ついていけない。あなたの、その狂った性格には。」

 知らなかった。そうなるであろうと予測した上で尚、自らを庇いカタチを失った人である事も。

「何れ……殺してあげるわ。それが多分、昔のあなたを()る者として果たせる役目。」

 捨て台詞は、決別を覚悟した、完全な拒絶の時。


 その後彼は、瓦礫の塔の主になった。


 風が嬲るよう、乱暴に髪を乱し視界を邪魔して、剥ぐように片手で纏めれば現れた決意の瞳の色は。
「やるわ……約束だもの。」
 自分で勝手に取り付けた約束。一方的な、それまでの過去で一方的でなかった事が一度だってあったのだろうか?
 誰しもが。
「世界を屠る野蛮な独裁者。悪として、葬る。」
 志を胸に、傷を負いながらも掴まりながらものがれようとした中、神の気紛れか奇跡的にロックと出逢い仲間達の元へ辿り着いた。
 その時点で、決まっていた事。
「そうよ、私が、この手で。」
 ひとえに、幼き過去(おのれ)との離反の為に。
 けれど。
「ちゃんと殺してあげるから
――――待っていて、ケフカ。」
 けれど、けれど。
 嗚呼、けれど。

 募る思いが憎しみで無くば、名付けをなんとすれば善い?
 占める思いが焦がすよう、泣き出したくなるこの胸はなんだろう?

 討つ事に躊躇いなど無い。
 絶対悪である事は揺るがない。

 それなのに、どうして。
 瞼の奥がひたすらに熱くて、ただひたすらに、流れそう。
 激情を見つけないように、無視して躱してそのまま、

 いつか後悔する日が来るのだろうか?

 拳を握った決意さえ、例えば無知を一つ解消し彼の真実に触れた日のように。
 誓いを果たした時にさえ、例えばあの人がわらうのなら。

 昔とは違い。
 嗤うのなら。

 昔のように。
 わらってくれたら。

「セリス? これから街に降りるって。」
 女性の扱いに長けている事もあってか必要以上に穏やかな物腰でエドガーが声を掛けたのと同時、顔を上げ満面に笑みを乗せセリスは頷いた。
「じゃあ、ティナとお買い物でもしようかしら。」
 ほどけぬ拳を自覚して、隠すようそっとマントに逃げればそれとなく追うエドガーの視線。
「なんだ、俺とデートはしてくれないのか。」
「ロックにも申し込まれたら困るでしょう?」
「は、は、は。そりゃあそうだ。」
 空を斜めに横切って、雲が船体を撫ぜてよぎる、見えた大陸広がる海が再び迎え入れてくれる世界。

 ぎりぎりと。
 鳴るのは、噛みしめる無知の歯軋りからか、血噴き出す指先からか、目を逸らし続ける胸奥の限界からか。

























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++以下言い訳

特にカプリング思考は無いので(殆どいけるというのもあり)そういった意味は無く、エドガーとの会話はジョークと受け取って頂ければ。
ロックでもセッツァーでも良かった訳です。寧ろそういった相手役を特定してしまうとそうでない派の方が読み辛くなるかなと……
尤もケフセリな時点で相当読み手を選んでいる事実がそこに歴然と横たわっておりますが。笑うしかない。
なんとなーく、何処となーく、幻覚痛と繋がっているような、でも別に続編っていう訳でも無い曖昧な立ち位置です。
ちなみにイメージですがティナは言語が乏しそうです(笑)。