焚いた火を中心に囲んで、食事も終えた其々が自身の為に時間を費やす中。
 昨日も一昨日も気にはなったがより一層、輪を掛けて落ち込んでいると見えるセシルの様子にじれったそう、パロムは口を開いた。
「いよいよ、明日には街に潜入だな!」
 景気付けのつもりで努めて明るく言い放ってみたものの、結果はセシルのため息の回数増加に拍車を掛けただけ。
「あーあぁ、っと……こんな調子で大丈夫なんかな?」
 ぼやいて見上げた夜空には満天の星。此処はバロン近郊の森の中。



 
志だけは翼を広げ



 夜の匂いが陰森を際立たせ、火の粉が爆ぜる度やたらと大きく響いては消える。
 老人という位置付けを考えれば当然の事か、寝入り支度を早々に済ませたテラはすっかりいびきを掻き始めていて、憧れの大賢者様のあまりの身近さにパロムもセシルに倣いため息を吐いてみた。
 しかし即座に、そぐわない、というより自分には似合わないと思い至りつまらない真似事をやめる。
 された当人は飽きもせず又ため息。段々と苛立ちが募り、再びパロムは言葉を探す。
「あんちゃんさぁ。なんっでそー、暗い訳?」
「ちょっと、パロム!」
 すかさずお目付け役のポロムが先制に入るが、特に気分を害した様子も無くセシルは力無く微笑んでみせた。その痛々しさと言ったら、幾らパラディンになったと言えども根底に流れるは、長年共に歩んで来た暗黒騎士そのものの陰鬱な性根。
「離れてた故郷に帰れるんだろ? もっとこう、嬉しそうにしろよ。」
「あんた本っ当、馬鹿ねぇ。」
 人差し指をピッと立て、ポロムの解説が始まる。
「いーい? セシルさんは王様に追い出された形でこの国を出たのよ? 気まずいに決まってるじゃないの。」
「だーかーら、ようやっと帰れてはっぴーじゃん!」
「あんた本っ当、馬鹿ねぇ。」
 繰り返される蔑称に流石のパロムも眉を上げるが、会話の種たるセシルが宥めるように双方の頭を撫でた。
「ありがとうポロム。確かに、本当は凄く、不安だらけなんだけど。だからって、いつまでもこんな調子じゃいけないよな?」
「そーだよ。そりゃもう反旗翻しちゃってる裏切り者だし、昨日の友は今日の敵っていうか、とんだ暴君に従えてるようじゃあんちゃんの見る目はちっとも無かった訳だけど、そこは」
「いい加減にしないと怒るわよ!」
「もう怒ってんじゃん!」
 よくもまぁずけずけと言いたい事を並べ立てたもので歯に衣着せぬ紛れも無い真実にセシルはこれまた苦笑いしか術が無かったが、じゃれ合うように喧々、激しい言い合いを繰り広げる幼い姉弟の姿は、和みもするもので。
「だからさ、ようやくおいら達みたいな素ン晴らしい仲間を手に入れられて、故郷を魔の手から救わんとしてる訳だから、もっとこう、堂々としてりゃーいいじゃん、って!」
「だったらもっとコンパクトに纏めなさいよ! 何もそうセシルさんの傷口に塩塗りたくらなくたっていいでしょ!」
「あーもー、がみがみがみがみ! 将来子供に嫌われるおっかさんになるぞそれじゃ!」
「誰のせいよ、誰の!」
 感嘆符まみれの怒声ばかり、騒がしい様子にそろそろ取っ組み合いでも始めますかと言ったところでようやくセシルは二人を其々片手で制し、どうどう往なす。
「二人共、ありがとう。……僕は大丈夫だから。」
 威風放ち人を寄せ付けない鉄仮面に隠れていた優しい素顔は、頼り無さも含んだ、柔らかな。
 争点の本人が二度も宥め役に回っていれば世話が無い、落ち着きどころ無く釈然としない様子ではあったが二人共それ以上言い争う事をやめた。
「根本的に変わる必要があるんだよな、うん。何かのめり込むような、趣味とか、夢の一つ二つ無いの?」
「んー……ただ、戦う事だけで精一杯だったからなぁ。」
「つまんないなーそれじゃ。夢は持ってなきゃ駄目だろう、男として。」
 陽にあまり当たらなかった為か白い頬をぽりぽりと掻いてセシルも、つまらないと言う意見に賛同なのか、再びため息が出始める。
「偉そうに仰るパロム様にはそりゃもうとびっきりの夢がおありなんでしょうね?」
「世界一の魔道士、とか?」
 消化不良、怒りが冷め遣らないのか厭味ったらしく突付くポロムに乗っかって、参考にでもするつもりなのか興味を持ったセシルの回答例に、ちっちっと指を振ってあんちゃん甘いね、生意気な態度。
「そんなん夢じゃないよ。だってもうそれ決定事項だもん。当たり前の事は夢とは呼ばないさ。」
「まー、全く何処からその自信は出てくるのかしら!」
 憤然とし、これ以上お付き合い出来ませんとポロムはいそいそテラの眠る辺りに引っ込んでしまった。短気というのか、なんともはや、取り残された男二人は互いに顔を見合わせ仕方が無いね、視線で語る。
「じゃあもっと、大きな夢がある訳だ?」
「壮大も壮大、地力を尽くして叶えるに値するものこそ夢だね!」
 萎み始める火に薪を焼べ、新たな栄養を飲み込もうと必死になる赤いゆらめきを眺めながら、恍惚の主導でゆったりと、パロムの表情は少年から男性のものに変わっていく。
「おいらってさ、強いから。ちょっと悪戯するだけで、弱いものいじめになっちゃうんだよな。」
 滲み出る自信の丈は、過小評価を屡持ち出す姉にしてみれば井の中のかわずとでも呼ぶのだろう。しかし、セシルにはとても羨ましく映る程に、瞳の耀きは純粋で。
「で、今更それは変えられないし。だから自分の手で、おいらに匹敵する魔道士を育てるんだ。そしたら全力投球ガチンコで戦えるだろ?」
「嗚呼……それに、人に教え人を育てるという事は、必ず自らを高めてくれる。研鑽にもなる。」
 何にも怖じず人に語れる夢ならば、魂燃やして値すると自らが信じるならば、十二分に立派なものだと。
「僕もそれくらい前向きになれるよう、努力するよ。」
「甘ーい! そんな弱腰じゃ全っ然駄目だね!」
「え、と。頑張るぞー! …とか?」
「……ちょっとずれてんだよな、あんちゃん。」
 仲睦まじく笑い合って。
 忘れ得ぬ過去に、加害者と被害者であった事を、感じさせないくらい笑い合って。

 せめて叶わぬ夢だと知らぬ間に、思い馳せる事を宵闇は許す。

























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++以下言い訳

そして夜が明け日が昇れば、城に突入し夢が粉々になる。
いや実際そんな夢を持っているかどうかは勿論不明ですし、これでも結構パロムらしい夢はなんぞやと悩んでみたんですが。
どうかなぁ。そこまで建設的な事は考えないかなぁ。いやでも、別に目先の事ばかり捉えている訳でも無いと思うんですよ。
反抗期というか、口煩い周りとか心配性の周りとかの影響で反骨精神が生意気として働くとしても、パロムが優秀な魔道士であるのは何も才能や素質だけではない筈だと。
成功には努力が必要だとかそれ程いい人にはなれませんが、文字を覚えて,呪文を覚えて、魔法として昇華させるのに、どうしたってパロム自身の力添えが無ければいけない訳ですから。

自身の趣向としてどうしても、矢張り始めの内はパロムに馴染む事は出来ませんでした。
しかし、だ。幼い身に秘めた決然の意思。
それこそ戦闘中の魔法でもある以上解除出来るだろう、助けられるだろう、何処かに逃げ道として残っていた甘さを打ち砕く程の。
治療が通じないのが自分の意思が強固過ぎて、なら互い掛けならよかったんだろうかとか邪推しますが、彼らにはまだ手の届かない領域(地道にレベル上げすれば習得する気もしますが)であったからこその、それでも構わない。
闇雲で、勝手で、突っ走って、直後には悲哀と暗雲を齎すものだとしても、その先に進んで欲しくて、光を見つけて欲しくて、
投げ出した結果なら。

ところで9ではブランクの兄貴は助かるんでしょうか?
この姉弟の例の為にはらはらしてるんですが、逆に戻るなら、二人にも届けてあげたいのに。
取り敢えず念の為のネタバレ防ぎでちょぴっと文章ワケワカメですすみません。