不思議な夢王国

作♪木島英恵

(1)夢の世界へ・・・

「ふわあぁ〜」
ねむそうな声。真夏の太陽が、
ちらっと顔を出しながら、
「朝だよー。」
 とみな子の目を妨げます。
「おかあさーん?」
朝ご飯 を食べようと思って呼んだのに、お母さんが下りてくる様子もありません。
「どうしたのかな?いつもなら、もう起きていてもいいはずなのに・・・」
 みな子は、そんなことをもぞもぞいいながらパンをそのまま、口の中へほう張りました。いつも早起きなのでたまには、こういうお寝ぼうがあってもいいと、思ったからでしょう。
 牛乳を飲んで口の中をゆすいでからカバンを持って家から飛びだしました。 
 今日は、七月二十七日。
 終業式です。だというのにもかかわらず、今日は、ねぼう
してしまいました。 
 昨日、親友のみえ子と、けんかしてしまったのです。

 (海をきれいにしよう。)と、
言う週間にもかかわらず、みな子が、
理科の実験の、ゴミを学校のすぐとなりの、
千歳湾に捨てたことで、みな子と、みえ子は、先生にしかられてしまいました。
 みえ子は、何かと、生き物を大切にする性格で、負けず嫌いです。・・・と言うよりプライドが高いのかもしれません。
 そんな性格のせいか、けんかをしてしまいました。
 いつもは、みえ子がむかえにきてくれるのに今日、みえ子が、来てくれなかったのは、きっとまだ起こっているにちがいありません。
 はやいうち誤っておこう。と思うのですが・・・ね。
 家を出ると、すでに七時五十分。みな子は、電車通いなので、七時五十五分の
電車に乗るのですがこの調子だとたぶん間に合いません。
 青々としげった桜の木の幹は、赤青黄色に色を変えています。
「まだ私寝ぼけてるのかな?」
 そうつぶやきながら、夏休み、宿題になる「情景が目にうかぶようなきれいな詩」の内容を、考えていました。
 青々と茂ったしいの木の下で・・・ 「青々としげったしいの木」じゃなー・・・そうだ、さっきのきれいな桜の木にしよう。
 それで・・・その桜の木の下で・・・・・ 
 みな子は、さっそく手帳を取り出して、今の文を、か条がきを、始めました。
 みなこの空想は、続きます。
 動物達がでてくるのもいいなぁー
 道路の、わきにねこがひなたぼっこをしています。
 そこを早歩きで通りすぎると、もうそこは、駅です。
「あっれー!」
 そこは・・・いつもの駅なのに、人がいません。
 いつも、朝一番に来ている駅員さんや、サラリーマンのおじさんもいません。 改札口に定期券を入れて、階段を下りると、そこにも人は、だーれもいません。 何かいやな気分です。
 あんなにさわがしかったセミの鳴き声ももうホームのなかでは、とどきません。
(そういえば、お母さんと、まだ顔会わせてないや。)
そう思いながらも、 みな子は、時計を見ながら、
「あっちゃー。もう電車は行っちゃってるよォー」
 そうわざと、元気にふるまいました。これは、寂しくなったときのみなこの癖です。そしておそるおそる、電車のくる左の方を見ました。
「     あっ。」
来たのです!きれいな虹色の、電車が・・・。音もなくはしってきて・・・。《特急》とも書いていなかったので、みな子は、安心して乗りました。
 乗って前から後ろにまわりましたが乗っているのは、・・・・わたしだけ?。 いつもぎゅうきゅうずめだからゆったりしているはずなのに、なんだか静かで、不安がどっと押し寄せてくるようでした。
みな子が下りる駅は、緑町駅。                       三つのって下りるのですが不安か何かでなってしまったのか、
それとも何かに引きつけられたのか、あと一つで下りてしまいました。
 駅名は・・・・書いてありません。聞こうと思っても誰もいません。
 はじめて下りた駅なのに、足は、自然に西入り口へと向かいます。
 急な階段を一段一段上がっていくと、ちょうど正面に、お店がありました。
 ガラスから中を透かしてみてみると、中には、きれいな長い髪に、清潔そうな真っ白のエプロンを掛けた女の人がいました。
 なんだか答えてくれそうな人だったので、みな子は、少しもじもじしながら、「あの・・・。この駅は、なんていうんですか?」
 とききました。
「あら?初めててですの?ここは、夢丘遊園っていうんですのよ。夢のある人だけがこられる・・・。幻のような物ですわ。」
「えっ。ここまで私誰とも会っていないんです。いったい・・・!」
 みな子は、少し興奮して、半泣きになりました。朝の不安がまんぱんになってはじけたみたいでした。
「もう泣くことないわ。あなたは、この世界にくるのが初めてだから・・、あっそうだわ!あれがあったのね。ちょ・・ちょっとまっていてね。」
 そういったかと思うと、お店の中で、がたがたと、音がしてあの女の人が戻ってきました。
「この飴をなめて。」
彼女は、手をさしのべました。
 そこにあったのは、ビー玉のようにきれいな、
飴でした。
 それをとってなめてみると、何か刺激を
感じて、頭が真っ白になったようでした。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 気がついたときには・・・・、そこは、大
勢の人!人!人!!
 まるで世界が変わったみたいでした。
「ここは・・・・」
そういったとき、はっとしました。ここは、さっきと同じ場所なのです。
 みな子があたりの様子にぼう然としているとさっきのお店の中から、
「ああ、気がついたのね。」
「あの・・・・じぶんでもよくわかんないんですが・・・いったいどうして人が増えたんですか?さっきの飴は、いったい何だったんですか?あなたは、いったい誰なんですか?質問しちゃって、ごめんなさい、でも・・、お願いします。教えてください。」
 その人は、ちょっとびっくりした様子で、みな子を見ましたが、すぐ穏やかに、「あなたは、正直な人ですね。あなたは、この国のというか、ここの人と同じ人になれる薬を飲んだのです。元の世界に戻るには、ここの国のひとの中であなたより年上の・・・つまりお姉さんを探せば、いいのです。そのお姉さんが帰り道を教えてくれます。」
みな子が、
「あなたは・・・・?」
と聞いたかと思うと、突然風が吹いたような気がして、みな子は、宙に舞い上がりました。

(2)みな子のお姉さん!

みな子は、どさっと落ちました。
 高いところから落ちたような感じがしたのに対して、傷一つありません。下は、ふかふかしているいきいきとした、芝生でした。 
 しばらくその芝生にごろんとねっころがっていましたが、お姉さんを探すことを思い出して、立ち上がりました。
「あれっ」
そこは、さっきは、気がつかなかったような、遊園地、水族館、動物園に映画館、と、子供の国が広がっていました。
(見とれていちゃいけない!早くお姉さんをさがさなくっちゃ)と思って気合いの一歩をふんだとき、
「きゃあっ」
 誰かとぶつかりました。
「ごめんね、だいじょうぶ」 
前を見ると、真っ赤な色のリボンの麦わら帽子をかぶった、一五才くらいの女の人がいました。
その人は、なぜか自分より幼いような
興味しんしんのまなざしをみな子に向けて
いるのでした。
 その人は、ふっと思い出したように、
「ねえ、きみいくつ?」
と聞きました。 
 みな子は、ちょっとびっくりしながら、
「十才。みな子っていうの。」
と答えました。
「ふーんじゃあぴったりだ。私、なな子。十四才。ちょっと背が高いっていうところかな。まあそれはいいとして、今日から私がお姉さんよ。よろしくね!」
 あっさり決まってしまいました。
 しかし、なにかみな子は、ちょっと不安でした。
 だってまだ初めてあった人なのに、お姉さんになってしまうなんて、信じられません。それに、(まだ私が、返事をしていないのに、勝手に決められてしまうなんて・・・・・)なんだか不満なこともありました。
まあ、私と同じ、夢丘遊園に来たのだから事情はあるんだろうけれど・・・。
 そんなみな子の不安感をふっとばすようになな子の声は、とってもはずんでいました。
「ねえ早くどこかいこう。そうだっ水族館に行こう!」
「えっ行くところ教えてくれるんじゃないの!」
 なな子は、どうやら忘れていたようすで、
「ああっそういえば、妹が教えてくれるっていってたけどその言い方だとしらないんでしょう」
なな子が知らないのは、確かなようです。
 でも、もしそうだったんなら、あの店長さんの言ってたことは・・・。

(3)さかな達のパラダイス

「ねえ。水族館に行ってみよう!」
 何回もなな子が言うのに、圧倒されたのか、しょうがなく・・・か、返事をすると、なな子は、待ちかねていたように、水族館の中にかけ込みました。
「ねえ!」
 そんな、張りきり気分のなな子とは、まるで正反対のように、みなこの心の中は、どこかの洞窟で置いてきぼりにされたような気分でした。
「ねえねえ見て!」
「うわぁーすっごーい!」
 そんな気分も水族館の中にはいると、一気に吹き飛んでしまうような感じでした。
 なぜか今の私が、過去の世界に、タイムスリップしてしまったようになんだか変な感じです。
 みな子もなな子も、幼稚園生のような感じで、受付を通り過ぎました。
 さて一番はじめに二人を待ちかまえていたのは・・・・なっなんとクジラ!
 その一瞬で、みな子は、(この水族館、ただ者じゃないぞっ)そう確信しました。
 少し時間がたったかと思うと急に、
「あっ」 
 みな子は、変なことに気がつきました。視力が二,〇くらいに上がったのです。 クジラの目やそのヒレの線まではっきりと見えるのです。次の所に行くと、そこには、たこがでーんと、腰を下ろしていました。
 今にも「炭をはくぞっ」というような目つきだったのでみな子は、思わずあとすざりをしてしまいました。 
 三番目のカンバンが見えたと思ったらそこは、大きなスクリーン。
 大きな水槽の中にさば・マグロ・イカ・いわしなどが入っていました。イカは、サバにすみをはいたり、イワシの集団は、いったり来たりと、ひっきりなしでずっといてもつまらなくは、なりそうにないくらいでした。
「おーい!」
 みな子がそこで見とれていると、なな子が「こっちこっち」と先に行って手招きしています。
 みな子がさっそくそこに駆けつけると、アザラシがでーんとすわっていました。
 大きな体に愛らしいかわいい目、長いひげはとっても立派でした。
 そのすぐそばがペンギン。
「きぁーかわいいっ」
 岩をぴょんぴょん飛び跳ねているものや水の中をすいすいと泳いでいる物など様々でした。                         
その後ろには、きんめだいがいました。
 そのとても大きな目がギョロッとこっちを見たときは、二人とも、びっくりしてしまいました。
 そこで先は、薄暗くなりました。
「あれっもう終わり?」
「あっ。ちょっと待ってっ!」
 なな子は、タタタッと走っていって合図しました。
どうやらまだ先があるようです。
 みな子もいってみると、そこにはカンバンがあって《ここより先夢魚》と、書いてありました。
 みな子となな子は、首をかしげました。
 ふつうの魚と、夢魚とは、どういうちがいがあるのでしょうか?
 なな子が、
「入ってみようか?」
と、聞いたのでみな子は、少し考えてから、
「入ってみようっ!」
と、ずんずん暗闇の中へ入っていきました。
 

(4)夢魚のひみつ

「うわぁー!」
 みな子が見たのは、真ん前を堂々と、通っている虹色のクジラでした。
 はじめ予想していたことよりもはるかに平均をこえて、すごいことです。
 2人は、海の中に立っていました・・・・いいえ、もしかすると魚達が空を飛んでいるのかもしれません。
 すぐ右には、みな子と、なな子に寄りそうようにエンゼルフィッシュが進んでいます。
 よく見ると、小さな口がこきざみに動いて、何かをさかんに、しゃべっているようでした。
「なあ、知っているかここあたり、この魚達が増えたわけ。」
「知ってるよ。ちとせ湾が汚れたからだろ。」
「ひでぇ話だよ。」
 みな子は、はっとしました。 
 この前、理科で出たゴミをそのまま海に捨てたことを・・・・。
 あのときあそこにちらっと見えた魚は、今話をしていた魚だったのです。
 みな子は、ぐっと心が締め付けられるようでした。
 (あのとき、ちゃんと始末しておけばここにくる魚も減らせたのかな・・・。) すると、今度は、目もくらむような蛍光色の車エビの大群に出会いました。
 そこの車エビ達も、しゃべっているようで、小さな話し声が聞こえてきました。
「まったくエンゼルフィッシュは、相変わらず言葉ずかいがあらいねぇー。」
 すると、それに答えるようにもう一匹は、
「父親とけんかでもしたんだろう。」
 その言葉に、(いけない)と、思ったみな子は、
「それはちがうわ!」
 といったのですが車エビ達は、突然の大きな声にびっくりして逃げていってしまいました。
 その声が、自分でも大きくなっていることは、分かりませんでしたが、なな子に、
「どうしたの?」
 と言われて、
(私は、三歳児になっているんだ。声の調節も、今は、聞かない。)
 そう自分に言い聞かせ、
「ううん」
 とあいまいな返事をしました。
 夢の魚達は、みんな海から追い出されてしまった魚だったのです。
 なな子が
「出口よ!」
 と言ったので、みな子もなな子と一緒に外に出ました。

(5)動物園は、要注意!

「あれ?」
 一番はじめに出たなな子は、
「ここがどうぶつえん?」
 と、不思議そうにいいました。
 みな子も出てみると、
「ふぅ」
 と、一つため息をついて、
「本当に変なところね。出たら、サファリパークじゃないのー???」
周りは、西から東まで、いっそう多いしげった1メートルほどの草でいっぱいです。
 さっきまでいた、不思議な水族館は、どこへ行ってしまったのやら・・・・?
遠くのほうに、なにやら黄色い物が、ありました。
 なな子が、
「ねえ、あれキリンじゃない?」
と言ったのでよーく見ようとしましたが、視力は、またいつもの0.3と0.4になってしまっていたので、みな子には、その字が見えませんでした。
「はやくっ!」
 なな子は、私の手をつかんで、一直線に、そのカンバンの所へダッシュしていきました。 
 そこにいたのは・・・・さるです。
「えー。うそでしょー。」
 なな子は、不満げに言いました。 
 さるは、りこうそうでも、何か、人間にうらみをもっているような目つきで、
「うるさい。つべこべいわんで早く、早くっ!」
 みな子となな子が切符というか、券のような物をもらうと、さるは、こっちを見てにんまりと、笑い、変なことを口走りました。
「ここには、もうじゅうがおるでな・・・その券を使うんじゃ。」
 そのとき、おおきな地震がありました。
「きゃあ!」
 2人ともしりもちをどんっと、ついて気絶したようでした。
 
 気がつくと、そこは、さっきの草原・・・・。
「私たちどうしちゃったのかしら・・・。」
 なな子も、普段の冷静感を、失ってしまったみたいで、おろおろしています。みな子もなな子も、いっぺんに夢から覚めてしまったみたいでした。
「どうしよう。」
 なな子にそんなことを言われたのは、始めてでした。
(こっちの世界に来てなな子に出会えたから、今こうして無事でいられるんだ。) みな子は、そう思いました。みな子1人だったらきっとまだおろおろしていたでしょう。
 みな子は、思い切って、
「まっすぐ前進、前進!」
 2人は、元のまえの道か分からないのに前進していきました。 
しばらくして、なな子が、
「あっ、あそこみてっ、みな子ちゃん、ほら。」
 そこには赤の、目立つ、上着を着たような、ハト達がおよそ5000羽くらいいました。
「行ってもいいかな?」
と、なな子が言いましたがみな子は、そのハトの多さに圧倒されて、無言のままでした。 それをいいことに、なな子は、ハトのほうへ近寄りました。
 ハトの澄んだ目は、じっとこちらを見つめています。別に2人をけいかいしているようでは、ありません。
と、いきなり 「バサバサッ」と、羽ばたきました。
 2人とも「あっ」と声を上げました。
 みな子は、ハトが逃げたわけは、なな子がハトに近寄りすぎてしまったからだと否定しましたが、その理由はもっと大変なものでした。
「あ・・あそこにいるのは何?」
 ななこの声は、少しふるえていました。