逢えばいつも喧嘩腰。それでも逢える毎日が大切。
 それは誰にとっての誰であり、誰から見た誰となのか。





 TIGER & BUNNY fan-fiction
 3.虎徹とバーナビー≒カリーナ≦楓






 ブルーローズを自宅まで送り届けてから、くるりと振り返って駆け足、曲がり角を覗く。
 誰もいない。
「ふふん、俺から逃げられると思うな?」
 ハンドレットパワーで全身を輝かせ、予測されるルートへ先回り。
 ある程度予想はついていたのか、ターゲットの方はハンドレットパワーでの逃走をしていなかった。
「こんな事で二人とも使ったら、いざ事件があった時大変ですから。」
 あっさりと諦めるその姿や潔し、バーナビーは悪びれもせず、空席のサイドカーを進めた。

「お前等、ずーっと尾けてたろ。」
 なんと言っても、待ち合わせの段階から、ずっと遠巻きに見ていたのだから。
 見張られているみたいで薄ら寒かったが、俺がへまをしてブルーローズを怒らせるんじゃないかという意味で控えているのではと思えば、心当たりがあり過ぎて。
「遅くなってからは、楓ちゃんは帰しましたよ。」
「ったくよぉ。楓もたまの休みでこっち出て来たなら、俺に会ってくれりゃあいいのに。」
 半分本気のぼやきは、楓の新しい遊びなのかとも疑ったからこそ、終ぞ尾行を正さなかった理由でもある。
「僕とのデートの方が先約でしたので。」
「なんだとぅっ!?」
「冗談です。」
 わかっちゃいたが、なんだか内心のひやひやが止まらない。やな汗だ。

「こっちこそ大変でしたよ。虎徹さん変なところばかり行くから、終いには怒鳴りつけてくるって楓ちゃんを押さえるのでいっぱいいっぱい。」
「ぬ、やっぱり変、だったか。ブルーローズもへんてこって言ってたもんなぁ。」
 笑っていたからいいが、どうやら事実は受け止めなければならないようだ。
「だから、虎徹さんだって最後でびしっと決める、その為の伏線だって、宥め賺してやっと帰るの納得してくれたんですよ。」
「嗚呼、それで最後の方は二人ともいなかったのか。」
 とっておきの一人上手場所では気配がなくなっていた理由に納得して頷く。
「で、まぁ時間を考えればブルーローズさんの自宅で待ってる方が確実だろうと。」
「おぅ、紳士だからな、ちゃんと最後までエスコートするさ。」
「紳士、ですか。」
「バニー、なんでお前笑いこらえてんだ?」
 その方がより馬鹿にされているイメージに、むっとしてしまう。
「いえ、ではその、紳士は最後どちらにご案内されたので?」
「んー……。お前ならいっか。おでん屋だよ。」
「……嗚呼、僕、楓ちゃんに報告するのがこわいです。」
 その前段階で相当お冠だというところを、最後の一発逆転に賭けて引き下がらせたなんて先の話から考えれば、確かにぞっとしない。
「っつーか、しなくていいから!」
「いえ、義務ですから。」
 こう言う時だけハンサムオーラを前面に押し出して、眼鏡の端をきらりと光らせる、イヤミな奴である。





 尾行の罰としてバーナビーに家まで送らせる道すがら。
 夜風が頬を叩いて、心地よいから、思わず何か話したくなる。
「なぁ、バニー?」
「なんです、虎徹さん。」
「ブルーローズって意味、知ってるか?」
 勿論、ヒーローネームとしてではない、その原義。

「青い薔薇は自然交配で発生しない。また、遺伝子操作をしても青とはとても言い難いものばかり。転じて、不可能やありえないものを指す言葉、ですね。」
「教科書通りの答えをドーモ。」
 ぴしっと眼鏡を中指で押さえ、秀才モードで解説する。
 様になるのがまた悔しい。
「とはいえそれも昔の事です。今ではそれなりに青と呼べるレベルのものもありますし、」
「それでも、難しい事には違いない。」
 それはそうですね、と否定をやめて、バーナビーは続きを促した。

「俺、思うんだ。昔は、お前の言葉まんまの意味だったろうって。でも今は、違うんじゃないか。」
 興味深そうに息を吐いて、それで?、と相槌。
 感情的になっている時は扨措き、基本的にバーナビーは聞き上手だからか、なんだか饒舌な気分にさせられる。
「言葉の意味は確かに、生まれた背景のみならず、生き延びた時代によっても変わりますからね。」
「だろ? 今は、難しいけどいつかは叶う事、頑張れば夢は叶うって、そういう前向きなものになってもいいって。」
「蕾は何れ花開く。成る程、虎徹さんらしからぬ、そんなロマンチックな台詞も言えたんですね。
 それで? ブルーローズご本人の感想は。」

「え? いや今思いついただけだけど?」

「……」
「あー、でも確かにいい事言ったよな、俺! よーし次はこれ言って、今度こそ恰好つけるか!」
「虎徹さん……」
 バーナビーがまるで同情するような視線を送ってくるがまるで気にしない。頑として受け付けない。
「えーいうるさいこの生まれついてからのハンサムめ!」


 青い薔薇。
 存在しない花。咲かない花。
 難しい花。中々作れない花。
 そうして段々と、夢が現実に近づいていく。
 不可能から可能へと、長い時間をかけて。
 まさに蕾が花開く、その瞬間までを、じれったく待ち焦がれる。

 例えばまるで希望がなさそうでも。
 諦めず、努力を重ね、いつかのその日を、夢見たならば。
 君が咲く日を、信じて待っていて、くれたのならば。

 いつかその大輪を、迎えに行ける日が来るかもしれない。
 例えばそう、一つの花しか愛でられない不器用な人間が、ようやく一つの花を咲かせて、違う花を、愛せる日も。





 自宅へ送るという罰ゲームを忠実にこなし、素気無く帰ろうとするバーナビーを引き止めて、一杯誘った。
「飲酒運転は犯罪ですよ、おじさん。」
「あのな、だから泊まってけって意味だよ!」
 何を企んでいるのか、と訝しそうにしていたが、
「ま、明日も朝からの予定はありますが、どうせ寝坊されて困るくらいなら、最初から一緒のが楽でいいですね。」
「いっちいち一言多いんだよお前は!」
 これでもう一つ、引っ掛かりを解消するチャンスが巡ってきたというものだ。

「そんでなんで楓とバニーが俺とブルーローズを尾行する、なんて流れになったんだ?」
 泊めてまで問いたかった核心を、ある程度覚悟していたのだろうか、バーナビーは驚きはしなかったが、物憂げな表情で沈黙する。
「……虎徹さん、ごめんなさい。」
「や、別に責めてるんじゃなくて、理由をだなぁ、」
 言いかけて、バーナビーの顔が腹でも痛いのか曇っているから、黙って言い分を聞く事にした。
「僕は、あなたのコンビです。」
「おうよ。」
「例え今はもう一分しか力が持たないとしても、パートナーはあなたしかいないと思ってます。」
「……おうよ。」
「僕にとって、虎徹さんだけが、相棒なんです。例えおじさんだろうが、二軍だろうが、破壊魔だろうが」
「バニーちゃん、俺の心、折りに来てる?」
 涙目で訴えると、あいつの方が泣きそうな顔をしているから、
 ざわり、心が、粟立つ。

「ブルーローズ、彼女が羨ましい。彼女は思い出せずとも、虎徹さんを信じられたのだから。」
 その事実に、今以て感謝をしていると熱く告げたばかりの身としては、生半可な気持ちで否定は出来なかった。
「それは、僕の知らない領域です。あの場に僕はいなくて、誰もが強烈に洗脳されていた中、一番最初に、手を差し伸べたのは。」
 今も尚、色褪せず残る、その瞬間は、否定なんてするべくもない。
「思い出せない、誰かもわからない、それでも賢明に訴える虎徹さんの言葉に耳を傾け、その時点の虎徹さんを信じてくれたのは。

 たった一人の、彼女だと聞きました。」

 その思い出が、今日を過ごした理由であり、これから先も、何かあれば駆けつけようと決めた原動力である。
「僕にして、自力で思い出したとはいえ、虎徹さんが一番手をかけてくれたからで、コンビとしての、冥利に尽きるし、義務だとも思う。」
「なんだ、わかってんじゃん。」
 破顔しかけたのも束の間、バーナビーはぶんぶん頭を横に揺らして、俺の言葉なんて振り払わんばかりだった。
「でも僕が! 僕が、復讐という吹き込まれた嘘に目が眩んでおらず、まだ朧気にしか思い出せてもいない人間を、自分や周囲さえ疑って、新たに信じ直せるかというと、」
「……自信がない。と?」
 頷きは、最早脱力しきってただの慣性にすら思えた。
「僕は、同じように出来るだろうか、自信がないんです。それでどうして、バディと言えるだろう……」
「同じようになんか、出来る訳がない。」
「違う人間だから、ですか?」
 陳腐で聞き飽きた慰めだと、捨て置こうとするバーナビーへ今度は此方が首を横に振って、力強く正面から、瞳を見据えた。
「する必要がないからだよ。」
 迷い易く、たじろぎ易い、その瞳にも、伝わるように、じっと、視線を逸らさない。

「俺がバニーとブルーローズに求めるものは違う。当たり前だ、相棒と仲間に求めるものが一緒だったらそりゃ、コンビなんて意味ねぇじゃん?」
「でも……」
「いいかぁ? 誰も信じてくれない世界で、もう一度俺を信じてくれたあいつは、本当に女神に見えたな!」
 ほら見た事かと俯こうとするバーナビーの頬を包んで、まだ目を逸らすなと、優しい命令。
「でも逆に、誰も思い出せはしないのに、ブルーローズだけでも思い出してくれないか、とは考えてなかった。」
 徐に顔を上げ、ゆっくりと、俺の言葉を飲み込み、バーナビーは、おそるおそる、口を開いた。

「それは、つまり。」
「そうだ。他の誰が忘れていても、お前だけには思い出して欲しかった。」
「それは、僕が、」
「俺達が、」

「「コンビだから。」」

 シンクロした声が、狭くて雑多な部屋に、じんわりと響く。
 流しこそしていないけれど、涙の香りがして、バーナビーの目は、うさぎのようほんのりと赤い。
「だーいたい、素性もわっかんない俺を信じるバニーちゃんなんか、そら気前良過ぎて気持ち悪いぜ。」
「……虎徹さんなんて見るからに不審者ですからね。正義の為にとっ捕まえますよ。」
「言うねぇ。」
 これが数秒前あんなにしおらしかった同一人物かと、意地悪を呟きたくなったが、折角清々しい表情をしているのだ、無粋はやめるか。それが大人だ。
「それだから僕は、虎徹さんのそばにいる資格がないんじゃないかって、ブルーローズの方が、相応しいんじゃないかって。」
 ここでようやく、バーナビーの行動その謎が解けた。疑問が解消出来て、すっきり夢気分。
「パートナーの座を譲ろうとした、ってか。」
「……まぁ、平たく言うと、概ねそうです。」
 妙に持って回った、まどろっこしい言い方だが、そういう言い回しがすきな奴だから、あまり深く気にする事もないだろうか。
「やぁだよ、俺、今度こそ添え物の引き立て役じゃん。」
「おや、今はその自覚がないと?」
「俺の隣はやっぱり、バニーちゃんでなきゃあ。」
「あなたって人は……全く、何処までわかって言ってるんだか。」
 何か含むところがあるような、ちょっとイヤミな顔で笑う。
「それでこそのバニーちゃんだよ。」
 もう一人、いつも通りになって欲しかった人間が、本調子に戻れたようで、やっと心からほっとした。

「ごめんなさい、虎徹さん。もう二度と、誰かにあなたの隣を譲ろうなんて、思いませんから。」
「おうっ、頼むぜ、バニー。」
 心から、信頼する相棒。
「絶対に、」
「おう。」
「もう二度と、誰にも。」
「……おぅ?」
 何故だろう、妙に熱が篭っている気が、するようなしないような。










 後日談。
「お父さんの、ブァカーーーーーッッッッッ!!!!!」
 あらん限りの声で受話器の向こうから怒鳴られる。
「くっそバニーめ、ばらしやがったな!?」
 次はせめて、焼鳥屋くらいにすべきだろうか。







































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++以下言い訳
久々に二次創作など。してしまうくらい面白かったですタイバニ。
推しは色々いるんですが、やはり熱くて真っ直ぐで馬鹿で砕けたおじさんがすきです。古きよき主人公像。
バーナビーはね、気持ちはわかるがちょっと待とうぜ、という点が多いので。
いや待てよ、それを言ったらカリーナもいや虎徹だってそういうところはあるな。でもバーナビーは特に目立つ。
個人的には、ペロペロしたいボクっこホァンと、相撲より侍に行って欲しいイワンとかもきゅんきゅん来るので、というかあれだ、虎徹争奪戦に於いてタッグを組んでいた辺りからちょっとこのツーショット気になるよね。よね!
その辺も機会があれば書いてみたいです。アントニオとネイサンはごめんです。本当ごめんなさいです。